「aonisai」
「早くkuruのじゃ」
「大変なこのni」
リターからBlaBlaでこんなメッセージが届いたのは、アークが誇る3名の歌姫による音楽番組を見ながら新年を迎えてしばらくした頃だった。
こうしたメッセージアプリに慣れていないリターが送ってくるメッセージは、誤字脱字誤変換まみれながらも、なんとか自分の思いを伝えようとする努力が感じられる長文のメッセージが多い。そんな彼女がここまで簡潔なメッセージを打つというのは、全知全能と謳われる部隊の片割れをして言外に緊急と言わしめる事態なのだろう。
年越し味パーフェクトの容器を軽くすすいでゴミ箱に放り込み、制服を慌てて着込む。テレビを消してコマンドセンターの扉を開ければ、1週間前にエニックの手によって遊園地に降った雪の名残りを感じる寒気が吹き込んできた。ルドミラやアリスのいる北方ほどではないにせよ、冷え込む深夜だった。
工房。そこは前哨基地の中で、我らが建設支援部隊マイティツールズが拠点にする施設だ。そして、前哨基地のありとあらゆるニケが訪れる場所でもある。それはマイティツールズの手にかかれば作れないものも直せないものは無い。彼女らならばいつでも最高の仕事をしてくれるという、私とニケたちの総意の表れでもあった。だからこそ、目の前にあるものがにわかには信じられなかった。
「センチ、ポリ。何が起きているかもう一回整理したい。ポリが着ているそれは一体何なんだ?」
「見ての通り、ポリさん用の潜入捜査用装備っす!」
「見てください指揮官!これで完全にお正月の風景ですよぉ」
目の前でふわふわとしたポリの髪がもふもふと跳ねる。髪の毛からはポリの顔がぴょこんと飛び出しており、上手に縛られた髪の毛が独特のシルエットを形作っている。ここまではまだヘアスタイルを変えたという名目で許される。問題はその下だ。
ゆるいどころか予算の無いマスコットキャラクターの着ぐるみもかくやという直方体のボディ。正式には三方と呼ぶその上部にはウラジロを模した飾りに加え、御幣と四方紅の二つにはご丁寧にエリシオンの社章があしらわれている。そして頭の上には、A.C.P.U.の徽章がきらりと光る橙。
目の前にあるのは、ポリ扮する鏡餅、言うなれば「鏡ポリ」だった。
「青二才、なんとか言ってやってはくれぬか……」
リターと私は、同時に頭を抱えた。
「そもそもだ。なんで潜入捜査装備なんか必要なんだ」
鏡餅に侵食されつつあるポリを引っ張り出して会議を始めると、ポリがBlaBlaでチャットルームを作り、私とセンチ、リターをメンバーに追加し、何件かのファイルを送信してきた。ルーム名は「年末年始特別警戒」。1件目のファイル名は「特殊迷彩服調達公募」。
なんとなく話が読めてきた。それも、あまり正解であってほしくない方向性で。
「A.C.P.U.では毎年、年末年始特別警戒を行ってるんですぅ。具体的には制服警官の集団警邏活動とか、エンターヘヴン排除ローラー活動とかなんですけど、テレビで見たことありません?」
「あー、A.C.P.U.密着24時とかでやってるやつ?」
「そうですそうですぅ!それですよん!」
「あれカッコいいっす!毎年見てるっす!」
「コホン!このままだと本題から逸れそうな気がするから、密着24時の話は後にするのじゃ」
確かにそれもそうだ。ポリの話を促す。
「それで、今年度はこのままだと予算が余りそうだからって、結構前にその年末年始特別警戒用の装備の入札を公募したんですぅ」
「それで、その入札に参加して契約したのがマイティツールズだったのじゃ」
「で、今ポリさんが送ってくれたファイルの1件目がその調達内容書と要件っす!」
「なるほどな…… で、どうして迷彩服が鏡餅に……」
リターが出してくれたほうじ茶を飲みながら調達内容書に目を通す。
「ポリさんの希望っす!」
「ぶっふぉっ!」
ほうじ茶が気道と鼻腔で大暴れする。
「親方!」
「指揮官!」
「青二才!」
「ちょっと待てどういうことだ!?」
てっきりセンチに任せた結果アイデアと意欲が爆発した末の産物かと思っていたが、ポリが希望を出した結果出来たのが鏡餅? 端末やテーブルを台拭きで拭きながらぐるぐる考えていると、そこにさらなる爆弾が投下される。
「センチさんの作ったクリスマスの迷彩服が完璧だったんですよぉ」
「……は?」
「喜んでもらえて幸いっす!」
「青二才、2件目のファイルを見るのじゃ……」
ファイル名は「12月納品書(特殊迷彩服)」。そもそもリターが止めに来いというからには、あの鏡餅はまだ納品されていないはず。となるとこの納品書は……
納品書の鑑は極めて一般的なものだった。なんならセンチが資材を買いに行く店や、前哨基地の食料品の仕入れでもよく見るものだ。問題は、最後の備考欄に添付された写真。
真っ白いクリスマスツリーが、あった。
飾りつけをよく見ればポリが使う無線機やサングラス、発煙筒があり、天辺で金色に輝くのはA.C.P.U.の徽章。そしてツリーの正面から出ているのは見慣れた顔。ポリの顔だ。
ポリ扮するクリスマスツリー、「ポリスマスツリー」だった。なんなら納品書の製品呼称にもそう書かれていた。
「これを着込んで張り込んでたポリさんが犯人を見つけた瞬間走り出す写真、A.C.P.U.広報の写真で見たときはもう本当にカッコよくて興奮したっす!」
センチが送ってくれたA.C.P.U.公式サイトのリンク先を見れば、確かに素晴らしい躍動感で駆け出しツリーの中からショットガンの銃口を飛び出させるポリ……スマスツリーの写真が掲載されている。
「なんだこれ…… プレゼントをもらえない悪い子レベル160へのお仕置きか何かか……?」
「センチに納品まで任せるのはまだ早かったのじゃ……」
「そんなことないですよぉ。この写真の事案はこの特殊迷彩服が無かったら検挙出来なかったものですよん!」
「目の前で賛否両論を見せられると反応に困るっす……」
「で、このタイプのデザインを気に入ったポリの要望で完成したのが『鏡餅』、というわけか」
「その通りっす!」
「鏡餅」をとりあえず畳んでしまった箱をチラリと見る私の対面で、センチがサムズアップした。
「……なるほど。リター、ツリーじゃ無い方の迷彩服の納入期限は?」
「検査とかをポリがやってくれるのを差し引いても明日いっぱいじゃ。」
「今からじゃどうしようも無ぇじゃねーか!!!!」
「その通りなんじゃ!!!!」
「「ふぅ……」」
勢いに気押されたポリとセンチを前に、二人揃ってほうじ茶を飲む。
「よし、本人もヨシって言ってるし、今回は納品してA.C.P.U.の案件はこれで一区切りにしよう。というか、そうするしかないだろう」
「そうじゃな。その上で……」
リターが立ち上がる。照明の位置もあり、センチに短い影が降り注いだ。
「いい機会じゃ。初夢に見る程度には、設計のなんたるかを教え直してやるのじゃ」
「お、親方!」
センチがすがるような目でこちらを見てくるが、流石にこれは庇いようがない。
「いい機会だ。新年の抱負が学びってのも悪くないんじゃないか?」
「親方ぁぁっっ!」
センチから悲痛な叫びが漏れる中、その合間を縫うようにポリがリターに問いかける。
「えぇと、結局これは納品されるんですよね?」
「もちろんじゃ。じゃが……」
リターが気の毒そうな目をして呟いた。
「それだけ特殊じゃと、来年は潜入捜査に使えんじゃろうなぁ……」
「ヤッホー!私の愛するルパンの皆さ〜ん☆ ルピーの爆買い『ショッパホリック・チャンネル』にようこそ!」
「今日のVlogは年に一度のお楽しみ、ロイヤルロードの福袋爆買いだよ〜!」
「今年のニューイヤーイベントはエリシオンがメインでやってるから、街頭に置かれてる鏡餅のオブジェもエリシオン仕様!とってもタクティカルだねっ☆」
「さて、まず最初に買いに行くお店は、ドゥルルルル……えっ、何?向こうから叫び声?ひったくり!?」
刹那、画面の端に映る鏡餅が走り出した光景の切り抜き動画が、アーク市民どころかアウターリムの住民さえも初笑いさせることを、ポリはまだ知らない。